ロスト・クロニクル~前編~


 ネーミングセンスに文句をつけるつもりではないが、あの名前は誤解を生む。

 知らない者がこの名前を聞いた場合、必ずと言っていいほど可愛らしい生き物を連想し、結果怪我人が続出する。

「丸焼きにしてしまった方が、この学園の平和に繋がると思うけど」

「フランソワーちゃんは少々凶暴だけど、可愛いぞ。たまに、手荒いコミュニケーションを取るけど」

「少々どころじゃない! それに、そんなコミュニケーションは願い下げだ。怪我したくない」

 オオトカゲのどのような部分が、可愛いというのか。

 ラルフは相変わらず、理解不能な言葉を繰り返す。

 今回のフランソワーの事件といい、おかしな生物を飼育する癖をラルフは持つ。

 あの癖さえ治れば学園に平和が訪れ、尚且つフランソワーも消えるだろうとエイルは考える。

「飽くなき探究心と言ってほしいね」

「で、フランソワーを逃がしたのもその“飽くなき探究心”によるものなのかな? ラルフ君」

「うっ! 今回の場合は、少し違う」

「ほー、理由は?」

「ケージの鍵を掛け忘れた」

「セリア先生って、怖いよな」

 何とも間抜けな理由に、エイルは聞かないフリをした。

 そして持っていたレポートに視線を落とすと、どのような内容を書くべきか考えはじめる。

 一方、完全に無視されたラルフはエイルを拝む。

「一緒に、捜してくれ」

「鍵を掛け忘れた、お前に責任がある。それに再び逃がしたら、どうなってしまうのか覚えているはず。フランソワーを逃がす以外に、とんでもないことを行ったくせに。寮内で、実験をしていたよな? 僕は、知っているぞ。自分だって、規則を守っていないじゃないか」

「嫌だな、エイル君。本気でやっていないよ」

「本気って、お前は……」

 勿論「寮内での実験は禁止」と校則で決められており、それを平気で破るのがラルフという人物。

 そもそも実験や研究などは、魔法の使用と同じように特殊な部屋でのみ許されている。

 実験器具の暴発に、制御できない魔法の暴走。

 それらを最小限に抑える特殊な結界が、張られているからだ。

 よってこの部屋以外で実験や魔法を使う場合、かなりの覚悟が必要となる。

 しかし、毎度毎度同じこと繰り返し、説教に反省文。

 ラルフには“懲りる”という言葉は存在しない。