ロスト・クロニクル~前編~



 まさに、運命の悪戯。はじめて友人扱いをされた時、エイルはラルフを蹴り倒したほどだ。

「今回は、何のようだ」

「いや~、フランソワーちゃんが逃げた」

「また、逃げたのか?」

 ラルフが言う “フランソワー”というのは、亜熱帯の沼地に生息するオオトカゲのことを示す。

 そのような生き物が何故メルダースにいるのかと不思議に思ってしまうが、ラルフの変わった性格を考えれば納得できる。

 だからといって、生き物の飼育は規則で禁止されている。

 そのオオトカゲを寮の自室でコッソリと飼育し、巨大に成長させてしまったから大変。

 このオオトカゲは成長すると全長二メートル以上になり、性格は獰猛で肉食。

 最近は狭い部屋を抜け出し、勝手に学園中を散歩しているというから困ったもの。

 噂では、野生生物を捕食しているらしい。

「誰かを襲ったらどうする」

「そう、それが問題」

「何だよ、その言い方」

「フランソワーちゃんは自由を求めて、学園を彷徨っている。だから、俺達で捜そうじゃないか」

「嫌だ」

「俺達、親友だろ?」

 猫なで声で引っ付くラルフであったが、エイルは容赦なく床に沈めた。

 フランソワーの凶暴性は、嫌というほど知っている。

 太い枝もへし折る強靭な顎。あれで噛まれたら一溜りもない。

 それに飼い主であるラルフに対しても、稀に“おいた”を見せるという。

 飼い主がそのような目に遭うのだから無関係の人物がフランソワーを相手にしたら、結果は自ずと見えてくる。

「いつ親友に?」

「今から」

「魔法の練習の的にしていいのなら、考えてもいいよ」

「フランソワーちゃんを丸焼きにして堪るか。それに、特定の場所以外での魔法の使用は禁止されている。優等生のエイルが、そのようなことをやるんだ。担任の教師に、言いつけるからね」

 いや、それ以前にラルフの方が校則違反をしている。

 それを棚に上げて――と思うエイルであったが、このままフランソワーを野放しにしておくわけにはいかない。

 そもそも凶暴なオオトカゲに“フランソワー”という可愛らしい名前をつける自体、何かが間違っている。