ロスト・クロニクル~前編~


「……悪かった」

「うん。素直でよろしい」

 その瞬間、ラルフは項垂れそのまま床に崩れ落ちてしまう。

 この姿こそ、エイルとラルフの力関係を表す構図であろう。

 どす黒いオーラを放ち上から見下す姿のエイルに、半泣き寸前のラルフ。

 決定的な力の差を見せ付けられた新人君は、エイルを崇めようと思いはじめた。

 ラルフが、小刻みに震えていた。

 そう、笑っているのだ。

 その異様な光景にエイルは息を呑むと、しゃがみ込みラルフの表情を確かめる。

 するとちょっぴり涙ぐみながら、含み笑いを漏らしていた。

「ラ、ラルフ」

 刹那、ラルフがガバっと顔を上げる。

 そして満面の笑みを浮かべながらエイルの表情を見ると、宣戦布告とも取れる言葉を発した。

「そうだよ。魔導師は、力が弱い。それなら、接近戦に持ち込めば勝てる。だから、勝負だ」

「ほう、ラルフは体力に自信があるんだ」

「勿論! 日頃から、重い実験用具を運んでいるからね。お陰で、腕の筋肉はこんなに凄いんだ」

 そう言うと立ち上がり、おかしなポーズを取る。

 これでも一応構えのスタイルらしいが、どう見てもへっぴり腰。

 最初から負けは決定していたが、受けた喧嘩は買う――それがエイルの考え。

 それに相手はラルフ、手加減する必要はない。

 それ以前に、徹底的に痛めつけたかった。

「行くよ、エイル!」

「いいよ。面白いじゃないか」

 前髪を掻き揚げると、立ち上がりラルフからの攻撃を待つ。構えは特に行わなかった。

 ラルフの力量など、はじめからわかっていたからだ。

 そして勝負は、一瞬のうちに決まった。

「はひ!」

 思いっきり飛び掛ろうとしたものの、エイルは素早い動きでラルフの胸倉を掴むとそのまま投げ飛ばす。

 可哀想なことに、ラルフ背中を床に強打。

 その痛みに息ができなくなり空気を求め喘ぐも、エイルの容赦ない攻撃は続く。

「全員が、弱いと思ったら大間違いだ!」

「ぎゃあ!」

 半分グロッキー状態のラルフに、エイルは複雑な関節技をかけていく。

 弱いどころか最強という名がついてもいいエイルの攻撃に、ラルフは昇天寸前だった。

 だが売られた喧嘩の代償は、きっちりと払ってもらわなければならない。

 そうしなければ、ストレスが溜まってしまう。