ロスト・クロニクル~前編~


「貴方は、総帥と呼ばれていますね」

「うーん、一部から」

「はあ? お前、総帥なんて呼ばれているんだ」

 顔に似合わない大げさな呼び名に、エイルの笑い声が響く。

 どう見てもラルフに「総帥」という名前は不釣合い。

 ラルフはただのマッドな研究者であり、これが一番似合う名前だとエイルは思っていた。

「ふん! これでも創立者だからね」

「あー、やっぱりそうなんだ」

「鋭いよね。本当に、困っちゃうよ」

 腰に両手を当てつつ、ラルフは大きな溜息をつく。

 そんな珍しい光景にエイルは再び笑うと、呆然と立ち尽くしている新人君に声を掛ける。

 どうやら、想像していた人物とラルフが違ったようだ。

「大丈夫。君の感覚は正常だよ」

「は、はい」

「そうだよね。このような生き物を見たら、普通は驚くよ」

「エ、エイル君。それはないよ」

「おかしな研究会を作る奴が何を言う」

 これはいい機会だと、エイルはラルフに「魔導研究会を作った理由」を聞いてみることにした。

 次の瞬間、ラルフはフッと笑い中指を立てる。

 そしてその理由を語ろうとしたが、エイルの睨みによって沈黙。

 どうやら嘘を話そうとしていたようだが、エイルの前ではそれは許されない。

 ラルフの行動を見抜いたエイルに、新人君は思わず拍手を送ってしまう。

 その反応に対し軽く手を上げ応えると、正直に話すように脅しを入れる。

 流石にこうなってしまったら、どうすることもできない。

 ラルフに勝ち目はないと判断すると、仕方なく素直に話しはじめた。

 話される内容にエイルの表情が変わっていくが、途中で止めることは許されない。

 簡単にまとめると一言で説明できる内容で、それは「エイルに勝つ為」という何ともシンプルなもの。

「面白い内容だね」

「だって、本気で魔法をぶっ飛ばすから」

「それは、お前が悪いからだ。おかしな研究をしなければ、僕はラルフに優しいよ。魔法だって、ぶっ飛ばさない」

 爽やかな笑みを浮かべるも、その裏側に隠されたどす黒い一面をラルフは感じていた。

 全身から発せられる黒オーラにラルフは嫌な汗が流れ落ちるのが、ハッキリとわかった。

 ここで媚を売るべきか、それとも……ラルフには、はじめから選択の余地など存在はしない。