滅多に見つからない実験台。
どうやらそれを簡単に手放すことはしないのだろう、可哀想に切ない悲鳴が聞こえてきた。
しかし、彼等の心配をしている暇などない。
エイルには、氷を溶かし中にいる生徒を救出するという使命があった。
それに彼等は、あのくらいで死にはしない。
「――赤き力よ、静寂なる青き力を滅せよ」
即興でつむがれた呪文により生み出された炎は、エイルが素早く突き出した掌に導かれるように突き進む。
刹那、氷とぶつかった影響で大量の水蒸気が発生し、目視では氷が溶けたかどうか判断できない。
「溶けたかな?」
「溶けていなかったら、もう一発いくよ」
「楽しそうだね」
「そう見える? 実は即興で、呪文を唱える練習をしているんだ。このような機会って、滅多にないから。僕にしても、実験台が見つかって嬉しいと思っている。相手は、魔導研究会だし」
そう軽く返事を返すと、溶けていなかった時の対処法を考えはじめる。
相手はエイルの「即興」という言葉に相手は耳を疑う。
呪文は、その魔法の属性と特性を表した言葉。
その為、即興で呪文を唱えるということは、それらを瞬時に理解できる能力に長けていることになる。
いくら初級の魔法とはいえ、これをできる生徒は数えるほど。
間近でそれを見られたことに感動を覚えた生徒達は一斉に拍手を送るが、エイルは首を傾げるだけで反応を見せない。
いまいちことの大きさを理解していないらしく、平然とした態度で氷の様子を眺めていた。
「溶けたみたいだ」
エイルの言葉に、視線が一点に集まる。
消えかけた水蒸気の隙間から、顔面から倒れている生徒の姿が目に飛び込んできた。
どうやら氷とぶつかった時に発生した音に驚き、気絶してしまったらしい。
その姿は何とも間抜けで、大股を開いた状態で口から魂が半分抜けていた。
「助けは……いらないか」
その言葉が示すように、数人の生徒が気絶している人物の周囲を取り囲んだ。
どうやら彼等も、回復魔法の使い手のようだ。
そして考えていることは、ただひとつ。
やはり、実験台だ。
魔導研究会は、一応勝負には勝った。
しかし使用された魔法の威力が大きかった為に、視覚的判断から負けと決め付けられてしまったのだろう。
そしてその裏に配当金が関係していたということは、流石に可哀想なので誰も魔導研究会にその真相を話すことはしなかった。


