周囲を見渡しても、それらしき人物は何処にもいない。
魔法の発動の前に逃げてしまったのだろうと思いつつ捜していると、とある物体に視線が止まる。
それは、大きな氷の塊であった。
「な、なあ?」
「何?」
「まさか、あの中に人はいないよな」
「あっ!」
暫しの沈黙の後、エイルは重大なことを思い出す。
そう、魔方陣の中心に生徒が一人立っていた。
逃げ出した形跡はどこにもないので、今もあの氷の中に閉じ込められている可能性が高い。
「いる」
「た、助け出さないと!」
「だ、だね」
慌てて氷の塊に近づくと、両手で叩き粉砕を試みる。
しかし魔法によって生み出した氷、そう簡単に破壊されることはない。
それどころか両手から体温と感覚を奪い、赤く染まっていく。
「そんなことをしたら、凍傷になるよ」
「急がないと人命が」
「この場合、魔法で溶かすのが手っ取り早いね。それに、魔法で生み出した氷は魔法でしか溶かせない」
「ま、まさか」
「本気は出さないよ。周囲を燃やすわけにはいかないし。それにこれ以上の被害は、ジグレッド教頭が煩い」
そう言いつつエイルは、地面に置いてあった銀貨を拾いつつ立ち上がる。
彼が再び魔法を使用するとわかった瞬間、周囲に緊張と動揺が走った。
先程の魔法の威力に、皆恐怖を覚えていた。
それに、使用する属性はわかっている。
氷を溶かす魔法――すなわち、炎系の魔法を使用する。
同時に、危険な属性でもあった。
炎は全てを燃やし尽くす属性なので、油断をすれば消し炭になってしまう。
「程々に」
「勿論! 中の人物に、火傷させるわけにはいかないし。それに強力な魔法を使ったら、火事になってしまうよ」
中に影響を与えず、氷だけ溶かす魔法。
それなら初級の簡単な魔法でいいと考えたエイルは、氷の塊の近くで魔法の練習をしていた生徒達に退くように伝える。
その言葉を受け取った生徒達は、研究会の面々を引きずりながら離れていく。
そして安全地帯まで退くと、再び練習を開始した。


