「一陣の風は、光と闇の波動を動かせん。その力こそ、汝に無と寂の世界を与える理であろう」
エイルが唱えた呪文は、氷を操る魔法だった。
詠唱と共に、周囲から熱が奪われ大気が結晶化する。
夏のこの時期、この魔法を使用するのは至難の業。
しかし、エイルは難なく使いこなしてしまう。
加減をするべき――はじめはそう思っていたが、怒りが前面に出てしまいそれを忘れてしまう。
それに「日頃の成果を」という学生の鏡のような考えが、魔法の威力を高めてしまった。
結果、思った以上に威力が強まる。
「――凍れ!」
発動の言葉は、その魔法の呪文名ではない。
これの魔法は普段禁止されている上級魔法なので、名前を聞いて反応する生徒も多い。
後で何かを言われるのを恐れ、エイルは名前を伏せた。
特に魔法の発動に、差し支えはない。
魔法名はその魔法そのものを表すだけであり、本当のところは何でもいい。
つまり、叫び声でもいいのだ。
要は魔法を発動するには切欠が必要で、それを表すのは人それぞれ。
よって中には、大声のみで魔法を発動する兵もいるという。
魔法名を言うのはわかり易いという意味合いも含まれているが、制御方法の安定と取られるのが正しい。
自分が使用する魔法を自分で発することで、その魔法の属性と威力を認識し安定を図れる。
一種の自己暗示のようなもの。
だからこそある程度慣れた術者になれば、それは無意識に行えるようになる。
エイルのように日頃から訓練を重ねている生徒なら、それも簡単だった。
今回、使用したのは上級魔法。
「無理をした」という考えが、表情から見て取れた。
発せられた言葉によって、魔法が力となる。
そして吹き荒れる風はエイルを中心に、周囲に広がっていく。
夏だというのに、一瞬にして校庭のみが冬へと変化させていく彼の力は凄まじかった。
広範囲に及ぶ魔法、エイルは心の中で「間違えた」と、呟く。
本当のところは、狭い範囲の魔法を使う予定だった。
「か、会長!」
「し、失礼します!」
「お元気で」
予想していた以上の魔法の威力に戦いた研究会の面々は、魔方陣の中にいる生徒を残し全員が逃げ去る。
薄情ともとれる行為に会長と呼ばれた生徒は大声で叫ぶが、誰も助けようとはしない。
やはり、自分の命が一番大事。
人間、土壇場に立たされると本性が出てしまう。


