ロスト・クロニクル~前編~


「友達になって」

 流石にエイル相手に、そのようなことは言えない。

 もし言った場合、裏切り行為となる。

 現在、魔導研究会の目標は「エイルに勝つ」ということ。

 つまり敵と友好関係を築くことは、あり得ない。

「彼女、いるのかな」

 素行調査の対象は、多岐に亘る。

 その中にはプライベートまで含まれており、交友関係の他に異性関係が気になるところだろう。

 今のところ、誰かと付き合っているという噂は聞かない。

 興味がないのか、それとも本当にもてないのか。いや、後者ということはないだろう。

 現に、数多くの女子生徒に声を掛けられている現場を、研究会の面々は目撃していた。

 それを毎回「羨ましい」と眺めているのが、今の現状。

 しかし傍から見れば、かなり異様な光景だ。

 そのような行動を行っているから、彼等の評判がた落ち。

 やっていることは素晴らしいことであるので、方向性を変えれば問題はない。

 だが、ガリ勉の彼等はそこまで頭が回らない。

 勉学に関しては天才的であるが、プライベートに関してはいまいち。

 それにエイルの素行調査を行っていると他の生徒に知られれば、ますます嫌がられる存在になるだろう。

 魔導研究会の未来は暗い。

「おっ! 動き出した」

 食事を終えたエイルが、何処かに向かおうとしていた。

 集まっていた生徒達が手を振り見送るのは、人気があるという証拠。

 素行調査を行っていた生徒も、こっそりとその後を追う。

 その存在を、エイルが気付いていないわけがない。

 足を止め、何度も振り返る。

 その姿はまるで「気付いている」と言っているように思えたが、魔導研究会の生徒は理解していない。

 反射的に身を隠すと、エイルが歩き出すのを待つ。

 どうやら、尾行は慣れているようだ。

 肩を竦め何事もなかったかのように歩き出すエイル。

 その後をついていくと、到着した場所は図書室であった。

 彼は素早く中に入ると、本棚の影に隠れる。

 そして本と本の隙間から、エイルの姿を観察した。

 誰もいないと思われた図書室。

 しかし数人の生徒が、真面目に勉強をしていた。

 そして運悪く、魔導研究会の生徒を発見してしまう。

 無論、おかしな視線を送ったことは言うまでもない。

 全身から怪しい雰囲気が滲み出た、ストーカーとも取れる行動。

 それを見た生徒達は小声で噂話をはじめる、相手が相手だけに言葉遣いは容赦ない。

 その口調はまるで、エイルがラルフに発する毒のようなものであった。

 いや、それ以上に厳しいもので言葉の端々に刺が見え隠れする。