ロスト・クロニクル~前編~


「マルガリータの意思は無視か」

「マルガリータちゃんは、植物だよ」

「じゃあ、フランソワーのように動く生き物には優しくして、動かないマルガリータは優しくしないのか」

「喋れないし。いっぱいあるから」

「差別だな」

 それは鋭い一言であったが、ラルフも負けてはいない。

 エイルの言葉を覆す何かを見つけたのか、胸を張り思いついた言葉を発する。

 しかしその言葉は逆に、自滅を招いてしまう。

「なら、マルガリータを捨てるなよ」

「お前が言う台詞か! マルガリータを実験に使っておきながら。それこそ、差別じゃないのか」

 間髪いれずに返された言葉に、ラルフが撃沈する。

 まずエイルを責める前に、自分の行いを正さないといけない。

 マルガリータの花弁をどどめ色に染めたのは、間違いなくラルフなのだから。

「ということで、マルガリータは捨てる」

「そ、それだけは」

「愛していないんだろ? 愛していたら、こんなことはしないよな。マルガリータをお前から救い出す為に、捨てるんだよ。まったく、毎回毎回どーーーーして、こんなことをする」

 次の瞬間、エイルは思いっきり植木鉢を振り上げると窓の外に投げ捨てる。

 それを見たラルフの悲鳴が、それに続いた。

 ガシャン!

 陶器で作られた鉢植えが、無残にも砕ける音が二人の耳に届く。

 その音に反応するかのようにラルフが窓から身を乗り出し、地面を確認する。

 彼は、何も言葉を発しない。

 ただ、微かに身体が震えている。

「さらば、マルガリータ」

「酷いよ!」

 その言葉と同時に振り返ったラルフの目元に、ちょっぴり涙が浮かんでいた。

 どうやら捨てられたことが、相当ショックらしい。

 あのようにどどめ色に変色してしまった山百合であっても、一応は愛していたようだ。

「おー、綺麗に割れたね」

 エイルは窓から下を覗くと、落下したマルガリータを眺める。

 鉢植えはエイルが言うように綺麗に真っ二つに割れ、転がっていた。

 一方マルガリータは、花弁を散らし無残な姿を晒す。

 これによりマルガリータは華麗に美しく命を散らし、その姿にエイルは手を併せた。