ロスト・クロニクル~前編~


「笑うことはないだろ?」

「すみません。ただ、昔と変わられたので。言い訳という言葉、昔では信じられません。そう、思っただけです」

「あいつと……ラルフと付き合っていれば、変わりもするよ。お陰で、周囲の見る目も変わったけどね」

「そのご友人に、会ってみたいものです」

「やめておいた方がいいよ。ラルフは、マッドな研究者だから。会ったら、ガッカリするよ」

「そうなのですか?」

「信じられないと思うけど、本当だよ」

 誰も立ち入らない秘密の部屋。

 それが、ラルフの部屋であった。

 唯一ラルフの部屋を訪れるのはエイルだけであり、危険性を熟知しているからだ。

 もし、リデルがラルフの部屋に入ったら……一瞬にして、周囲の物が燃え上がってしまう。

 それだけあの部屋は、危険に満ちている。

「其処の修理中の壁。ラルフが実験に失敗して、ふっ飛ばした場所だよ。勿論、他にもあるけど」

 それは、日常の光景の一部と化したような言い方であった。

 エイルが指差した方向には、屋根が吹き飛び煉瓦が散乱していた。

 屋根だけはなく壁にも巨大な穴が開いており、爆発の凄まじさを教える。

「こういうことを平然とやる奴だから、真面目なリデルとは合わないと思う。もし会ったら、大変なことになるよ」

 そう言いつつ、エイルは肩を竦めていた。

 どうやら、適当な言い訳が見つからないらしい。

 そんなエイルの横顔を見つめつつ、リデルは微笑を浮かべていた。

 平凡でありながら、幸せに暮らしていることに安心したのだろう。

 思っていた以上の暮らしをしていたことに、胸を撫で下ろす。

 しかし、急に表情が曇る。

 自分が持ってきた話でエイルの生活を変えてしまうことが、心苦しいようだ。

 彼女の表情の変化に気付いたエイルは、表情を強張らせる。

 だが、決してリデルを責めようとはしない。

 責めるのは自分自身であり、要は早く決めてしまえばいい。

 それに、役割は決まっていた。

 強い方。

 それはリデルがエイルに抱く印象。

 だが同時に、その言葉の裏側も知る。

 今のエイルは、その裏側が表れているのだろう。

 脆い一面――それを持っているからこそ、人は他人に優しくなれるという。

 常に強い部分を見せていたら、他人の弱さを受け入れることはできない。