「本音を――」
そうエイルは言葉を発するが、何を思ったのか途中で止めてしまう。
その後、暫くの間美しく磨かれた石の床に視線を落とす。
その間、リデルはエイルの言葉を待ち続けた。
真剣な面持ちを浮かべ、このままエイルが喋らなければ永遠に待ち続ける――そんな印象が強かった。
ふと、沈黙を続けていたエイルが口を開く。
そして彼が発した言葉というのは、リデルへの本音だった。
「何も隠さず、本音で話してくれるなら。リデルに頼みごとをするよ。だから、それまでは――」
「そのように望むのでしたら、そのようにいたしますが。今まで、お気に召さなかったのですね」
「いや、違う。立場というのは関係なく、人と人との会話をしてほしいんだ。僕という存在と、リデルという個人同士で。そうしてくれないと、苦しいんだよ。それに、敬語もいらない」
エイルの本音にリデルは、驚きを隠せないでいた。
彼が発した言葉は、今まで当たり前と思っていた立場や関係を崩すもの。
リデルは親衛隊に入隊する以前から、上位の者に敬意を示すのが当たり前だと思っていた。
それだというのにエイルの言葉は、それを完全否定した。
不思議な方。
リデルは、無意識に口許が緩んだ。
「わかりました」
「それと、名前も普通に呼ぶ。この二つ」
「他の者に、怒られます」
「関係は、特にないよ。それに学園でそのように呼ばれていると、誤解を招いてしまうからね。中には、馴れ馴れしくなる生徒もいると思うし。それに偉いのは父さんで、僕じゃない」
「それは、わかっております」
「それに……」
いったん其処で言葉を止めると、周囲に誰もいないことを確認する。
今は夏休み中なので誰かに立ち聞きされるという心配はないが、万が一が考えられるので用心に越したことはない。
それに聞かれたら聞かれたで後々が厄介になり、最終的にラルフの耳に入ったもっと厄介だ。
「名前はその者の存在を表すものだけど、だからと言って名前に縛られることはない。ただの呼称であり、あると便利という代物だから。そう言っておきながら、僕は呼称さえ違えばいいと思っていた。でも、普通に呼んでほしいと思っているのは事実。だから“様”は止めてほしいな」


