(どうすれば……)
エイルは、全てを否定しているわけではない。
ただこの学園での生活が、本来の自分に合っていた。
エイルは、勉学を学ぶことは好きだ。
そして知識を得て、多くのことに役立てたいと思っている。
そのように思っているからこそ、今回の件は驚きを隠せず動揺していた。
首を伸ばし、開かれた窓から薄い雲が流れる空を眺める。
青い空に浮かぶのは、風に身を任せる雲。
彼等は、これから何処を旅するのか。
もしかしたら、エイルの故郷にも行くかもしれない。
ふと「この雲のように、自由になりたい」そんな思いが生まれる。
何事にも縛られない自由な生活。
それがエイルにとっての理想だった。
その理想を手放すのは、あまりにも惜しい。
しかし、拒絶はできない。
エイルは寝台から身体を起こしつつ枕の下から封に入った手紙を取り出すと、それを裏返し宛名を確認する。
これは、父親から送られた手紙。
いつもと違う文面に「何かあったのか」と思っていたが、このようになるとは――
何ら変哲もない手紙から、全てがはじまる。
運命の歯車は再び動き出し、多くの者達を飲み込む。
歯車は静かに回り続け、人は抗うことができない。
運命は、はじめから決まっていた。
預言者ではないので、詳しくは知らない。
もし未来を知ることができたとしたら、最悪な結末を回避できたというのか。
いや起こることが運命であるとしたら、回避する術はない。
エイル様。
そう呼ばれていたのは、いつのことか。
確か、メルダースに入学する前まで呼ばれていた。
しかしエイルが嫌がり、それ以来誰もそう呼ばなくなった。
自分という存在が偉いのなら、そう呼ばれてもいい。
だが偉いと思われているのは家名であり父親であって、エイルではない。
だからこそ、呼ばれることを拒絶した。
「……シェラ……様」
無意識に呟いた名前。
その名は、クローディア王国の女王の名。
無論、故郷と統治する女王の名は知っている。
面識と言えばあると言った方が正しく、それは王宮で対面しているからだ。
12歳の若き女王は今、何を思い何を願っているのか。
また半幽閉生活の中、慕う人物はいるのか。
リデルの救いを求めるような言葉。
彼女を――シェラを共に護ってほしいというものだろう。信頼を置ける味方は、多い方がいい。
だからこそ、この学園までやって来た。


