ロスト・クロニクル~前編~


 だが、何故か躊躇いの方が強い。

 エイルはリデルの顔を一瞥した後、俯いてしまう。

 結論は急いだ方がいいとわかっていても、なかなか答えが見つからない。

 そんなエイルの気持ちを察したのか、ジグレッドが口を開く。

「答えが見つからないようだな」

「……すみません」

「いや、唐突な話だ。無理もない」

「暫く、考えます。勿論僕の立場を考えると、このようなことを言ってはいけないのですが……」

「いや、仕方がない」

 独りになり冷静に考えれば、適切な答えを導き出せる。

 それに混乱している頭では、良い結論は出ない。

 ジグレッドはそのことを諭すように言うと、エイルに正しい結論を出すよう促す。

 しかしエイルは結論を出していたが、それを言葉に表さないだけ。

 それにこの結論次第で、人生を大きく左右してしまう。

 それに帰れば縛られ、自由がないに等しい生活となってしまう。

 魅力的なメルダースの生活を失いたくない――

 それがエイルの答えであった。

「……エイル様」

 リデルの言葉に、エイルは過敏に反応を示す。

 過去にそう呼ばれていたことを思い出し、無性に悲しくなってしまう。

 エイルは溜息と同時に椅子から腰を上げると、ジグレッドに向かい深々と頭を垂れる。

「部屋で、休みます」

「答えが決まったら、来るがいい」

「……はい」

 踵を返し、部屋から出て行こうとする。

 そんなエイルを呼び止めようとリデルは何か言葉を発するが、上手く言葉にならない。

 もしかしたら、呼び止めようとする意思とは別に、呼び止めてはいけないという気持ちがあったのだろう。

 リデルは静かに、エイルの後姿を見送る。

「お強いです」

「強さだけではなく弱さも持ち合わせてこそ、人として優しくなれるのだ。そう、彼のようの」

 暗い表情を浮かべるリデルに、ジグレッドは優しく言葉を掛ける。

 その何気ない気遣いに、口許に緩めていくと無言で頷く。

 エイルが背負い、その身で感じているもの。

 全てとは言えないが、リデルは理解しているつもりだった。

 だからこそ、無理に呼び止めようとはしない。