ロスト・クロニクル~前編~


 別に、恨むという感情はない。

 ただ、エイルにとって寂しかった。

「憎いとは思わなかった?」

 それは、唐突な質問であった。

 その言葉にリデルはハッとなり、息を呑む。

 憎い――それは答えにくい内容であったが、質問されたからには答えないといけない。

 それに、エイルに嘘は通じない。

「憎いと思ったことは、一度もございません」

 リデルの発した言葉に、嘘は感じられなかった。

 それは、真意から述べた言葉であったからだ。

 今回のことは、エイルが悪いのではない。

 全ては運命のままに進んだものであって、恨むということはできない。

 それが武力で強制されたとしても、リデルは首を縦には振らない。

 リデルは、エイルの心内を理解しているつもりだった。

 痛く苦しく――そして、切ないまでの心情を。

 それはエイルを押し潰そうとし、その身に背負った役割の大きさを物語っていた。

「なかなか結果が出なくて、時間ばかりが掛かってしまう。もっと僕が……だから、そう思った」

 今まで、そのことが心配であった。

 憎らしいと思われているのではないかと考え、魘される毎日が続いた。

 しかし真相を知っている者はそのようなことを口にはせず、寧ろ憐れみる。

「そのようなことはありません」

 それは、優しい言葉であった。

 それにより、自分エイルは一人ではないということを知る。

 大勢の味方が側にいて、支えてくれている。

 その時、ラルフの顔が思い浮かぶが、彼は別問題。

 確かに友人同士と思えなくもなかったが、支えるというより迷惑を掛けることが多い。

 それに過ぎ去った時間は、取り戻すことはできない。

 そして誰かを想うという心は、変わることはない。

 エイルにとってリデルの発言は嬉しかったが、決断はできないでいた。

 怖い……正直、その思いが強かった。

 エイルの居場所というのは、リデルが指し示す場所――クローディア王国。

 そもそも、居場所とは何か。

 あるべき場所。

 存在するに正しい所。

 そのようなことを、誰が決めたというのか。

 だが、よくよく考えれば言い訳を繰り返していることになる。

 自分は〈バゼラード〉の名前を継ぐ者であり、父親との約束を果す為にメルダースに入学した。

 それだというのに、父親は一度戻って来いと言っている。

この場合、従うのが懸命だろう。