ロスト・クロニクル~前編~


「僕は、まだ若いよ。父さんのようにはできない。いや、父さんが偉大すぎる。高い壁だよ」

「私が、何とかいたします」

「そこまでしなくともいいよ。そのようなことをしてしまったら、リデルの立場も危うくなる」

 本当に、認めてくれるというのか。

 中には、それを望まぬ者も存在する。

 それは、女王であるシェラから笑顔と言葉を奪った奴等だ。

 邪魔者だ――

 ただ、それだけの理由で。

 そう、いらぬ存在は彼等の立場を危うくする。

 フレイは、強い発言権を有していた。

 いやフレイという存在がそうさせているのではなく〈バゼラード〉と言う名に、力があったのだ。

 その為、一部の者達から疎まれていたという。

 エイルもまた、その名を継ぐ者。

 嫌でも周囲の視線を感じてしまい、それは今も同じであった。

「本当は――」

 建前などいらない。

 心の底の言葉を聞きたかった。

 リデルの真意は――エイルという存在を、どう思っているのか。

 本当に、望んでいるのか。

 それとも、受け継ぐ名を求めているのか。

 エイルは、リデルの顔を確認してしまう。

 知的で冷静な顔つきが、其処にはあった。

 その表情から、迷いなど感じることはない。

 ふと、エイルが自分の顔を見ていることに気付いたリデルは「どうしました?」と、尋ねる。

 しかしエイルは無言を続け、自問自答を繰り返す。

 リデルから、本音を聞くのが恐ろしかった。

 名を求めている――

 そのように言われたらと、葛藤する。

 無論、リデルはそのようなことは言わない。

 頭ではそれがわかっていても、感情がそれに伴わない。

 全身が奮え、エイルの身体を嫌な汗が流れ落ちる。

 自分という存在は――

 何故、生きているのか。

 そのようなことを考えたことは、一度としてない。

 いつの間にか魔法を学び友と語り合う此方が現実で、リデルが語る世界が幻だと思ってしまった。

 そしてこの会話も、幻の中で語られる出来事。

 朝が来れば、普段の生活が待っている。

 そしていつものように勉学に励み、新しい魔法を学び訓練を行なう。

 またテストの点数が悪かったと友人達と嘆き、ごく普通の少年が体験する学園生活を送る。

 苦しくも楽しい、メルダースの生活。

 リデルの話が幻と望もうとも、突き付けられるのは現実。