ロスト・クロニクル~前編~


「父さんは、何て言っているんだ?」

「フレイ様は、一度戻って来て欲しいそうです。どうやら、何かお話ししたいことがあるようで……」

 予想していない言葉に、エイルの身体が震える。

 勿論、リデルの言葉は理解できる。

 しかし、無性に怖い。

 国を離れて四年。

 それは、メルダースに入学した時期だ。

 魔法を学びたくて――いや、正確には違う。

 本当は、役割を持っていた。

 その為、高度なレベルの勉学を必死に学んでいった。

 だが、卒業はしていない。

 それなのに――

 エイルは、溜息をつく。

「帰れと言うのか?」

「はい」

 何を望み、何を期待しているのか。

 名前か、それとも地位か。

 もっと、別のものか。

 四年の間、必死に役割を果そうと努力してきた。

 辛く哀しく――時折、心が痛む。

 それに、この生活から離れたくないという気持ちも強い。

 入学の当時、崇高な使命を持っていたが、時間の経過と共に感情が変化していき、何処にでもいるような普通の少年を求める。

 魔法を憧れ、日々それを学ぶ。

 そして、平凡な毎日を過ごす。

 エイルにとっていつの間にか当たり前になっていたが、リデルの言葉が置かれている状況を思い出させる。

 普通の少年に、なることはできない。

 全ては、ただの夢――

 同じ道に進め。

 周囲が言いたいのは、そのようなこと。

 エイルの一族は、代々王家に仕える立場にあった。

 エイルの父親フレイが引退した今、それを息子に望むのは当たり前の出来事である。

 正直、エイルはそれが嫌いであった。

 後を継ぐということは、間違いなく比較されてしまう。

 能力が無い場合、罵倒されるだろう。

 それを回避したい為に、必死に勉強しメルダースに入学した。

 だが「リデルに憧れた」というのは、嘘ではない。

 魔法の才能が自身にあるとわかった時、エイルは素直に喜んだという。

 そして力を欲したということも、嘘ではない。

 今思えば馬鹿馬鹿しい考えであったが、あの当時それしか考えることができなかった。

 だからこそ、死に物狂いで勉強したのだろう。

 そう思うとリデルを利用してしまったと思い、エイルの心を締め付ける。

 チクっと、刺が刺さるような痛みが走った。

 それは、今でも続いている。