ロスト・クロニクル~前編~


 心の病。

 正しくは、此方であった。

 数年前から女王は言葉を失い、感情を封印した。

 人形のように椅子に腰を掛け、ただ空を眺めるだけの毎日を過ごす。

 政治は民の意思に関係なく進められ、国は徐々に衰退を辿っていく。

 過去の栄光はどこに――

 豊かな国と謳われたクローディア王国。

 今では一部の権力者が統治する、栄華を失った国。

「変わっていないんだ」

「我々では、どうすることも」

「父さんが、いるというのに」

「そのことですが、フレイ様は隊長の座から退きました」

「腰が痛いって、手紙に書いてあったからな。無理はできないし、それに……うん、わかった」

 父親の行動に納得したのか、リデルに返事を返していた。

 だが顔の曇りが取れることはなく、寧ろ濃くなっていく。

 尊敬していた父親の引退――

 それはエイルにとって、衝撃的であった。

 父親に対し、強くて逞しいというイメージを持つ。

 だからこそ、受け入れるのに時間が掛かった。

「エイル君」

「大丈夫。悲しいと、思っただけだから」

 クローディア王国の女王は、8歳で即位した。

 公式の記録では、そうなっている。

 名前は、シェラ・アトワーヌ・クレスタで、12歳の幼い女王。

 しかし心を失った女王は、年齢より幼い。

 父である先王の病死により、若くして国を統治することになった。

 無論、政治を行う能力はないので、側近による独裁的な政治。

 彼等は右も左もわからない少女を隠れ蓑に、好き勝手に行っている。

 シェラという少女に課せられたのは、人形として振舞うこと。

 彼女に感情はいらない、言葉も不要だ。

 ただ、彼女が女王として生きていればいい。

 また、王座に座っていればいい。

 シェラは何も語らないというのに、彼女の代弁者が語る。

 女王の意思という形を取り、己の欲求を満たしていく。

 クローディアは、そのような者達によって動かされているといっていい。

 彼等は甘い蜜を大量に吸いブクブクと太るが、まだ足りないと言い続け幼い女王を盾に好き勝手に振舞う。

 欲望は新しい欲望を呼び寄せ、クローディアという母体に吸い付き寄生し栄養を吸い取る。