「話しとは一体?」
「特にこれといって、お話はありません。ただ、エイルさ……エイル君の顔を見に来たのです」
椅子に腰を掛けつつ、メルダースに来た理由を話す。
一瞬言葉に詰まるも、冷静さを装った。
たどたどしい態度と、敬語で喋るリデル。
そのおかしい雰囲気に、ジグレッドは横から口を挟む。
この場所での敬語は不要だ。
それに、互いに置かれている立場を考えなくていい。
そのように言うジグレッドに、リデルは苦笑する。
しかし日頃の癖で、ついつい敬語を用いてしまうという。
その理由は、エイルとリデルの立場の差。
日頃金銭面で苦労しているエイルだが、これでも彼は貴族の坊ちゃん。
それも、父親は伯爵の地位を持つ偉い人だ。
一方リデルは、平民の出。
その立場の差から無意識のうちに敬語を使い、位が高い人物に敬意を示してしまう。
だが、ジグレッドはそのようなものは必要ないと言う。
メルダースは地位に関係なく受け入れている学園なので、この場所での「敬語」は不似合い。
それにジグレッド自身、堅苦しいのは嫌っている。
それでも染み付いてしまった体質は、そう簡単に抜け切れないようだ。
「いいよ。それに、その方がリデルらしいし。それに、御免。敬語を注意して……別にいいよ」
「すみません」
「で、仕事は忙しいんだ」
「はい。とても……」
「待っている人がいると思うよ」
その言葉に、リデルは思わず息を呑む。
痛い部分を突かれたのか、反射的に視線を逸らしてしまう。
〈王室親衛隊〉彼女はクローディア王国の女王を守る立場にあり、多くの部下を統率する副隊長の地位に就いていた。
その為、エイルが言った「待っている人」という言葉に過敏に反応を示す。
「それですが――」
急にリデルの表情が変化し、言葉を濁す。
何か重大なことを隠しているのか、動揺もしている。
深い溜息に、疲労の色が見え隠れする。
するとジグレッドが、リデルの代わりに話を続ける。
それは、エイルの母国クローディアに関わる話であり、衝撃的な内容であった。
「女王が倒れられた」それが、ジグレッドの口から伝えられた真実。
若い年齢での一国の統治は、心身に予想以上の負担を与えてしまう。
そのことが積りに積もって、ついに病を発症するに至ってしまったというが、それは表向きの――外交上の理由で、真実は全く違う。


