精霊の謳姫


ゆっくりと。
周囲の輝きがノヴァへと収束していくように、辺りの暗闇が徐々に戻ってくる。

最後の光が凪いだ灯火のように消え去ると、そこにはもうなんの変哲もない、来た時と同じ様な泉と畔があるだけだった。


リディアはありがとう、と呟くと、心なしか顔色が戻った様子の作り物のような少年の寝顔をそっと撫でた。

早くいつもの調子のノヴァに会いたくて、相変わらずきめ細かく冷たいその頬をつねってやりたい衝動に駆られる。


充分とまではいかずとも、これで少しは回復の手助けになっただろう。


「リディア様…今のは?」


火を起こしたアレンが、リディアの傍で寝入るノヴァの様子を伺いに来た。
リディアは安堵したような表情でアレンにふっと微笑みかける。


「この泉の精霊たちが、魔力を分けてくれると言うから少し力を借りたの。優しいわね。」

「そう、ですか。」


アレンはリディアの見ている世界を、少しだけ垣間見れた気がした。
本人に自覚はないようだが、精霊の放つ力の輝きを具現化させたのはノヴァの杖を介したリディアの力だ。

しかし、リディアは精霊に働きかけて魔法を生じさせる術を知らない。

あれは恐らく、彼女の想いにノヴァの杖が応えたのだろう。
長年使い込まれた魔法道具は使用する人間の魔力に同調して意思を持つと言われるが、はたして今回の場合はどうだろうか。

歳から見れば長年、というにはノヴァはまだ若いのではないかとも思うが、彼の扱う魔力量は只人の比でないし杖自体も中々使い込まれた代物のように見受けられる。

もっとも、その杖を使用したのは持ち主本人ではなく魔法も初心者のリディアなのだが、彼女も彼女で只人ではない。


時にはこんなこともあるのだな、とアレンはどこか他人事のように感嘆するのだった。