精霊の謳姫


リディアは知らなかった。

転移魔法がそう容易く使えるものではないことを。

転移魔法には代価がいらない分、複雑な陣と多量な魔力が必要になってくる。
人が一人移動するにも魔力の消費は相当なものだ。一介の魔導師ではそうそう使えない。
それを三人同時にそこそこの距離を飛ぶとなると、一体彼への負担はどれ程のものだっただろう。

意識のないノヴァを抱えるアレンは言った。

普通の魔導師であれば最悪命を落していたかもしれない魔力の使い方をしたのだと。


一度目はミロスの城下。二度目は今。
充分に魔力を回復出来る程の時は経ってない。
いくら平然としていたって神童と謳われたって彼もまだ少年だ。

魔力の回復は心身共に休まって初めて行われる。
神経質な彼がこの旅でずっと気を張っていたのなら、休まる時はあっただろうか?



…森の奥の、小さな泉の畔。
ノヴァをそこに横たえて、火の用意をしているアレンの代わりにリディアはじっと彼の様子をみていた。

閉ざされた青い隻眼。
思えばその理由も、リディアは知らない。
気付いたらノヴァはいつも隣にいて、口喧嘩は日常茶飯事だったけれど、なんだかんだ言いながらも我が儘に付き合ってくれる優しい人。

強くて、賢くて、プライドが高くて、一人でなんでも出来てしまうから弱音なんて一切吐かない。

だから、自分を顧みない彼のことは周囲が支えてあげなければならなかったのに。

陶器のように色白な肌が、暗いせいかより一層青ざめてしまっているような気がする。

いや、きっと気のせいではないだろう。
やはり彼にはここ数日、ずっと無理をさせていたのではなかろうか。