精霊の謳姫

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眩い光が収まり、ゆっくり瞳を開けるとそこはやはり森の中だった。

久方ぶりに宿に泊まれると思ったが、どうやらまた野宿らしい。
けれど野営は嫌いではないリディアには、それ自体は何ということはない。

…が、問題は何故宿を得たのにこうして森の中へ飛んだのかだ。


「急ごう。それほど距離は稼げていない。」


私たちは、”何か”に追われて逃げている。
そして恐らく…彼はその”何か”を知っている。

到着早々、野営の準備ではなく先を急ぐらしいノヴァに業を煮やしたリディアはとうとうその手をとって引き止めた。


「ちょっとノヴァ、待っ…___え?」


__それはあまりに突然で、リディアは急激に時間の流れが遅くなるような錯覚に陥った。


「ノヴァ?!」


彼の白い手を引いた途端、まるで根のない草でも掴んだかのように、いとも簡単にその体がリディアの方へ傾く。


「リディア様!!」


咄嗟に受け止めきれず、リディアはノヴァを抱えたまま地面に背中から倒れこんだ。

慌てて駆け寄ったアレンに抱き起こされるも、背中の痛みを感じている間もなく、リディアは倒れたまま起き上がる気配のないノヴァに狼狽えながら縋りつく。


「ノ、ノヴァ!?ねぇノヴァ…ッ!!!
やだ…なんで…!?
アレン、アレンどうしよう!?ノヴァが…!」

「落ち着いてくださいリディア様。

…意識を失っているだけのようなので、恐らく転移魔法による魔力の枯渇でしょう。一度開けた場所へ移動します。
ノヴァ様は私が運ぶので、リディア様はそこに落ちているノヴァ様の杖を。」


冷静に淡々と容態の確認をするアレンとは対照的に、リディアは宥められてもまだ落ち着かず、ノヴァの落とした美しい装飾の杖を胸元でギュッと握りしめた。