精霊の謳姫



「きゃ……っ!?」


ガタガタと窓が揺れ出し、手をかけたハンドルをどこからともなくやってきた一迅の風が奪い取った。

ビュウッと窓から入り込んだ風はリディアを吹き抜け、意思を持ったようにぐるりと部屋で渦を巻く。


そして、
ともすれば身体ごと飛ばされてしまいそうな風が一際激しく過ぎ去ろうとした、その刹那。


《お逃げ愛し子…追う者が来る…》

「!?あなたは…!!」


まるで嵐のような、それは一瞬の出来事だった。

…再び静寂が戻ってくる。
しかしリディアの鼓動はトクトクとせわしく胸を叩き続けていた。

間違いない。
今までこうして相見したことはなかったが、去り際のあの声の主は四大精霊の一角を担う風の精霊”シルフィード”だ。

ウンディーネから気まぐれ屋だと聞いてはいたが、どうやらせっかちという情報も追加しておく必要がありそうだ。


(『追う者』…って、一体なんのこと…?)


彼は過ぎ去りざま確かに言った。

『お逃げ』『追う者が来る』と。


言うだけ言って去って行ってしまうものだから、主要な部分がさっぱりわからない。
しかし、聞き流すにはあまりに物騒な”便り”だ。

盗賊かなにかだろうか…。

ふつふつと嫌な予感が忍び寄る。
これは一度ノヴァ達に知らせた方が良さそうだと判断し、リディアが戸口を目指したその時___またも勢い良く、扉が開いた。

しかし今度は風の所為ではない。

そこには丁度思い描いていた彼が…けれど想像とは全く違う表情をして立っている。

そしてここにもやはり、せっかちがいた。



「今すぐここを出る。30秒で支度するんだ!!」