精霊の謳姫


夜。

その日は山を越えられず、道中にある小さな村の宿を借りることになった。

村で唯一というその宿は閑散としており、客入りが少ないのは明らかで実際この日の客もリディア達だけのようだ。

ウェスタリアの政策によって交通の便は良くなったものの、東方は未開の地となっており、唯一の大国は鎖国という有様である。
故に道はあっても行く理由がないので、人通りの少ない東部界隈は宿場町が発展していないのが現状だった。


部屋を二つ借りてノヴァやアレンと別れたリディアは、宿で出された夕食を摂り一人で湯浴みを済ませた後、城にあったものと比べると幾分簡素なベッドに腰掛けたまま、しばらく窓から見える夜空をぼんやりと眺めていた。

周りに明かりの少ない村落は、少し肌寒い紺碧の夜空に浮かぶ星々を幾多も浮かび上がらせている。

リディアはゆっくりと立ち上がると、星に誘われるように窓辺へ歩み寄り、夜風を部屋へ招き入れた。

城でいつも見ていた月とは、少し違う。

煌々と眩い象牙色に変わりはないのだが、その姿はどこか寂しげに見えた。

幾多の星々に囲まれていながら、それでもたった一つ孤独な月。


(どうして___)


あぁ…そうか。


「寂しいのは、きっと私の方ね…」


きっと自分は今、不安なのだろう。

見つけなければならないのだ。
正解のない、自分自身の答えを。