精霊の謳姫


元は小さな町同士の諍い。
それが国家規模に発展し、やがて大陸中を巻き込んだ。

多くの森が焼け、文化が壊れ、人が死んだ。


閉鎖的だった大陸中の国々が同盟を組み合い、一斉に蜂起してから、ひと月。

たった三十日間で自然豊かだったノーザルツ大陸は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


”崩壊の一ヶ月”。


あの惨劇を二度と繰り返すまいと人々は今、表面上ではあるが和平の道を探り始め、
ノーザルツ大陸の国々はウェスタニア王国を中心にまとまり始めている。


『ノーザルツの平和を共に』というのが彼らの協定における常套句であったが、しかし。
それは恐らく大義名分に過ぎないだろう、とアレンが以前教えてくれた。

表向きは争いのない世を、とは言いつつもその実、武断的な気質を持ち合わせているのがウェスタニアだ。


他国へ侵出し傘下に置き、多大な市場を獲得しているウェスタニアが、果たして本当に争いのない世を望んでいるのか疑わしいところである。


ウェスタニアがミロスと手を結びたい本当の理由はおそらく、他国に頼らなくともやっていけるほど潤沢な資源と、それから魔導師という特異な戦力を抱え込むことだろう。

それなのに得体の知れない脅威を持つ国は、友好的でないときている。
ウェスタニアからしてみれば、ミロスは目の上のこぶのはずで一刻も早く安心したいに違いない。


見せかけの平和はいつ崩れるとも知れない、なんとも脆いものであるのだ。



リディアは形容し難い心持ちになった。


--もっと、知らなければならない。

今まで見ようとしていなかったこと、
見えなかったものを、沢山。



複雑な顔で俯き口を閉ざしたリディアに
ノヴァも、そしてアレンも声を掛けることはなかった。