城にいた頃と比べるとかなり軽装の彼は、白銀の鎧は纏わず、今の武装は腰に提げた魔剣一振りという身軽さだ。

それには、下手に御仁護衛とみられて物盗りや賊に絡まれるのを避ける為、という理由があるのだが…

それが功をそうしてか、世が安泰なのかは定かではないが、未だそういった輩には出くわしていない。



「ふん。
…まぁ、たとえ戦争になってもミロスには魔導師達がいるしね。
他所にも精霊の力を操れる種族が存在するかもしれないけど、国家規模であれだけの魔導師が集まる国は少なくともこの大陸にはない。
だから他国も相手の戦力が計れない以上、迂闊に手出しは出来ないんだろう。」



ノヴァがしらけた顔でミロスの外交事情について明かす傍ら、アレンは渋い顔でノヴァを見ていた。



「それも時間の問題だと思われますがね…
現状、ミロスはウェスタニアと緊張状態にあります。
もう一度あの国に牙向けば、恐らくは…」



ーー次こそ武力で制圧される。


はたから見れば、同盟国のいないミロスは孤立無援。
ウェスタニアがその気になれば、諸国に呼びかけて一斉攻撃することも訳無いだろう。



「知らなかった。
そんなことになってたなんて…
私、自分の国のことなのに」



他の国については学んでも、自分の国のことなどあまり気にしなかった。

分かった気になって。
穏やかな、豊かな国なのだと、漠然とそう思い込んでいただけで。
一国の責任を担う王族であるにも関わらず、外にばかり目が向いて自国のことなど無関心に等しかったのだ。


リディアは教本で読んだ過去の戦争を思い出して、ドキリとした。