昼前の眩い陽光が、焦げ茶のコルセットで締められた白いブラウスに反射する。
上はフードの付いた臙脂色の外套を羽織り、下では同色のフレアスカートが足取りに合わせて軽やかに踊る。



「”ウェスタニア”?」



…祖国を発ってしばらく。


すっかり旅装束に身を包まれたリディアが小首を傾げたのは、山間の小さな宿場町を出て数分後のことだった。

艶やかな胡桃色の髪を結い上げ、後れ毛のなびく耳元には行方知れずの母が残した翡翠の粒石が久方ぶりにその姿を見せていた。



「そう、通称”セントラル”。
ミロスの教本にも書いてあっただろう?」



…ひとまずの目的地はそこらしい。



彼らの歩くよく均された道は、国を渡る者に親切だ。

国と国とを結ぶ行路。
その途上には点々と宿場町が存在し、商人や使者、旅芸人などあらゆる人々が利用するため需要が高い。


そして、その道は全て一つの国へと集まる。


賢王と諡されたウェスタニア王国の先導者は、周辺諸国と協定を結び、交通路を整え、国家間の貿易を振興させたことで自国を大陸一の富国へと導いた。


中には、元々そこに住まわっていた先住民達の村落を切り拓いて道にしたという話もあるが…

しかし、それほど横暴な手段をとることが出来たのも、かの大国ウェスタニアだからこそであろう。