精霊の謳姫


ーミロス国王宮ー




「何!?リディアがおらぬだと…!?」



眼光の鋭い深緑の瞳が、驚きに見開かれる。
思わず玉座から立ち上がった国王は、目の前で跪く一人の魔導師を凝視した。



「申し訳ございません。
昨晩、妙な魔力を感じて姫君の部屋を訪ねた所、もぬけの殻となっておりまして…
直ちに城周辺を捜しに行かせましたが、
従者諸共、いなくなったようです。」



淡々と静かな声音で状況を報告する魔導師に、国王の顔は見る見るうちに憤怒に染まっていく。


パリン、と何かが砕け散った。



「戯けがッ!!!!!!
一体何をしておったのだ!!!!」



ビリビリと空間をも震わすような怒声。

投げつけられたワイングラスは、俯き膝をついていた魔導師の顔に当たり、破片となって床に散らばった。
果実酒の甘美な芳香がほのかに漂う。


しかし、魔導師は微動だにしない。


グラスの破片によって切れた白い肌と、
滲み出る赤のコントラストが不気味な妖しさを漂わせている。



「これでは”昔”と同じではないか!!!
何のためにお前をリディアの下に付けたと
思っている!?」



興奮冷めやらぬ国王の怒声に、ゆっくりと魔導師が顔を上げる。




フチのない眼鏡に、横に流された長い
赤毛の三つ編み、そしてその色白な美しい顔立ちは___。