精霊の謳姫


きっとこの少年は、それ以上。



「…僕は生きて欲しいと思った。
だから例えこいつが反対しようと、拒絶しようと、僕のやることは変わらない。

僕なら、あんな檻の中よりも絶対に幸せな人生を送らせてやれる自信があるからね。
…傲慢でしょ?」



彼女に仕えていた日々の中で、悩み続けて、そしてようやくその答えに辿り着いたのだろう。


まるで無垢な少年のように微笑うノヴァの瞳に、迷いは無かった。



アレンはもう一度、視線を寝入る少女へと移した。


あまりに穏やかなその寝顔に、思わず頬が緩んでしまう。


…どうか、彼女には幸せな夢だけ見ていて欲しい。


それには…


「…えぇ。
確かに、そうかもしれませんね。
リディア様を幸せに出来るのは、
何も貴方だけとは限りませんので。」



時に、
傲慢になることも必要なのかもしれない。


魔導師の少年は、珍しく強気なアレンの言葉にクスリと微笑っただけで、それ以上口を開くことはなかった。



車内に落ちる沈黙は居心地の悪いものではなく、むしろ穏やかな安堵に近い。


それは、束の間の安息。



闇の支配する森の道を、質素な木製馬車が駆ける。


___冷たい夜の風が、鬱蒼と茂る漆黒の木々を一迅凪いだ。