精霊の謳姫


今回のようなことが頻繁に起これば、
嫌でも考えてしまう。

姫にもしものことがあったら、と。




ーーそれならば。


そうなる前に


いっそ…




「あまりおいたが過ぎるようでしたら、

…鎖で繋ぎますよ?」




ーー何かで繋ぎとめておいた方が、
彼女の為なのではないか。




彼の瞳が、危うく光る。


…ジャラリ、なんて不穏な音が聞こえたのはきっと幻聴だろう。
いや、そう思うしかリディアに選択肢は残されていない。

彼が本気で怒っているのを瞬時に悟ったリディアは、彼をこれ以上刺激しないよう、必死に首を縦に振った。


青ざめた主を見下ろして、ふと冷静さを
思い出したアレンは、次第にいつもの穏やかな表情を取り戻していく。


澄んだ翡翠の瞳を微かに濡らして、
木の葉のついた艶やかな胡桃色の髪を
揺らす少女。

純粋という言葉がよく似合う、どこか儚げで、それでいて何者にも囚われないような意思の強さは昔から変わらない。

歳を重ねて変わったところと言えば、
彼女の惹きつけられるような”美しさ”が
大人のそれへと成長していることだろうか。


アレンは不思議そうな表情を浮かべるリディアに、もう一度大きなため息を吐いた。



「本当に、
頼みますよ?リディア様。

…あと、もう少し。
もう少しの間ですから…。」



彼の瞳に、もう先程の光はない。

代わりにかげを孕んだ琥珀が少しだけ、
揺れていた。


それは大木の落とす”影”だったか、
あるいは別の”陰”であったか。




小さく呟かれた語尾が聞き取れず催促したリディアだったが、
「なんでもありません」と、彼はもう教えてはくれなかった。