精霊の謳姫



まずい、と思った時には既に遅く。



完璧な微笑みを浮かべる彼の、

背後に見えるは般若の威圧。


ゆらりと揺らぐ…静かな青き焰。




「お転婆も程々にしてくださいと、
何度言えば分かっていただけるのでしょうか?

勝手に街へ出ようとしたり、蛇を手懐けたり、木に登ったり…
つい先日にも、部屋を鳥類で溢れ返らせたばかりですよね?」


うぅ、と返す言葉もないリディアは、
表情と言動が反比例している自身の騎士
のただならぬ雰囲気に、
本能的な身の危険を感じてじりじりと後退する。



…そう、彼女の奇行は今回に限った話ではない。

年を重ねるごとにお世辞にも淑女とは言い難い行動をとることが増え、
最近では例の魔導師から「野生に戻った」と獣扱いを受けたばかりだ。


通常ならば目付け役としてノヴァかサリー、どちらかが彼女の側についている筈なのだが、
成人を目前に控えた17歳の王女の従者は何かと忙しいようで。

必然的に、その役目は騎士へと回ってくる。


そして今日も、

姫の勉強をみていたサリーから「仕事が入ったのでリディア様を頼みます」と伝達がきた時は、早急に鍛錬を切り上げてきたのだが…

ほんの数刻も、
主君は大人しくしていてはくれないらしい。


毎度毎度想像もつかない突飛をしでかす彼女に、騎士の方は気が気でない。




なにかあってからでは遅いのだ。
特に、今は。