精霊の謳姫



「昔も今も、変わらない。
馬鹿みたいにいつも笑っててさ。
他人を疑うことを知らないんだ、あいつは。」



感慨深くその話を聞きながら、彼は
少女と初めて会った時のことを思い返していた。

そういえば、初対面だったにも関わらず
随分親しげに話しかけてきたな、と。



幼かった頃の面影を残しつつ、彼女は
明るく清く美しく成長し、誰よりも真っ直ぐに前を向いて生きている。


ーー己を待ち受ける運命も知らずに。



「…分かっていると思うけど、
一応聞いておくよ。」



少年らしい悪戯な表情で。
けれど瞳は試すような視線で。


ーー彼は問う。




「”国家”を敵に回す覚悟は出来てる?」




そんな天才魔導師から一分も目を逸らすことなく、白銀の騎士はきっぱりと言い放った。



「愚問です。
何の為にここへ戻ってきたと思って
いるんですか。」



視線を交えたまま、少しの沈黙の後。


ふっと満足気に微笑むと、ふわりと柔らかな金髪を揺らし、踵を返した魔導師の少年は石造りの廊下を一人颯爽と戻って行った。


その後ろ姿を見送った白銀の騎士は、
しばらく雲の切れ間に覗く月を眺めていたが、
一つ息を吐き出すと消えた魔導師の後を追い、やがてその姿を闇に消した。



ほのかに辺りを照らしていた半月も、いつの間にか薄灰の雲でその身を覆っている。


後に残されたのは、
夜独特のひっそりとした静寂…__






この日。
そんな密会があったことなど
誰も知る由もなく、



そうして…




三年という時がまるで穏やかに
過ぎ去って行ったのだった___。