精霊の謳姫



少女の白く細い指が、無骨な手の平の
上で踊る。

何かをなぞっているような動きだ。


優しく滑るように、そして規則的に。

触れる無邪気な少女の温度がじんわりと伝わり、
胸につかえていた重い氷の塊を溶かしていくようだった。



『おまじない!
ノヴァに教えてもらったの。
ノヴァは、すごい魔法使いなの!
だから、落ち込んでる人が元気になる魔法はない?って聞いたら、こうして3回お星様を書けばいいんだよって。
ほら、これできっともう大丈夫だよ!』



”おまじない”とやらを書き終え、
顔をあげた少女は自信と安堵に満ちた
表情を浮かべていた。


その一瞬の刻の間に。

透き通る程真っ直ぐなその瞳を。
穢れを知らないその笑顔を。
暖かな…その温もりを。

護りたい、と思った。
ただ純粋にそう思ったのだ。

騎士とは本来、”護る者”。

いつしか自分は、熟年の君主に仕え、戦い、武勲をあげることが名誉なのだと思い込んでいた。
しかし理想の君主は現れず、それとはかけ離れた現実の汚さに絶望した。


本当に護るべきものは高飛車な貴族でも、強欲な権力者でもない。


止まっていた時計が時間を取り戻したかのように、自分の中で何かが動き出すのを感じた。



ずっと探していた、
俺に足りなかったもの。




その時、
俺はようやく”騎士”になった__。