「…それで?その九条院家のお嬢様が、わざわざ敵である俺らのところに何しに来たわけ?
まぁ、粗方美桜ちゃんのことなんだろうけど」




樹は胡座をかいた膝の上に頬杖をついてニヤリと笑った。
絵里香は樹を見てから一瞬だけ視線を美桜に向けた。




美桜は眉をハの字にして絵里香を見ている。
絵里香はそれぞれに視線を向けながら口を開いた。




「…仰る通り、私がここに来たのは美桜のことです。
先日、我が九条院家の兄弟達が集まって聞かされたのは、黒女の導に関するルールの追加というものでした」


「…ルールの追加……?」




絵里香の言葉に反応したのは涼音だった。
涼音は眉間にシワを寄せ、険しい表情で絵里香を見ていた。




絵里香はしばらく膝の上で握り締めた手を見つめた。
その手は力を込めすぎているせいか、それとも言うのを躊躇っているのか小刻みに震えている。




「…絵里香様……」




絵里香の言おうとしていることを知っている真は、絵里香の背中を心配そうに見つめている。




すると絵里香の向かい側にいた美桜が立ち上がり、絵里香の隣へと移動した。
絵里香の隣に座ると、震える絵里香の手を両手で包み込んだ。




絵里香は目を丸くして顔を上げると、そこには優しく微笑む美桜がいた。




その笑みはまるで絵里香に『私は大丈夫』と語りかけているようだった。




そんな美桜を見て決意したのか、絵里香は僅かに頷いた。