「……僕だよ」
ガチャ
ゆっくりと部屋の扉が開いた。
扉の向こうから現れた人物に、部屋にいた全員が目を丸くして固まった。
「…僕がその紙を送ったんだ」
クリーム色の整えられた髪に栗色の瞳をした男を見た途端、全員椅子から立ち上がる。
それを見た男は眉をハの字にして微笑む。
「今日は大事な会議ってわけじゃないから、いつもみたいに畏まらなくてもいいよ」
男の言葉で兄弟達は何も言わずに一斉に座った。
先程まで人の意見に挑発していた結子でさえも、額に汗を浮かべて何も言わない。
「文人(あやと)様、こちらへ」
男の後ろにいた黒髪のスーツ姿の男が、文人と呼んだ男を誘導し誕生席にある椅子を引いた。
文人と呼ばれた男は兄弟達の視線を感じながら、男の引いた椅子に座った。
彼が九条院家第1男・九条院 文人(くじょういん あやと)。
彼の背後にいるのは護衛人の柊 神(ひいらぎ こう)。
文人は席につくとまずは昴を見た。
「昴は相変わらず本が好きなんだね。この前僕が送った本は読んでくれた?」
「読みました。
最近興味が出てきていた歴史物の本で、すぐに読み終えてしまいましたよ」
「そっか。それはよかった」
文人は昴を真っ直ぐに見つめ、やがて目を細めてニコッと笑った。