涼音に睨まれた湊は「ひっ!」と間抜けな声を出した。




湊は辺りを見回し、近くにあった銃を手に取り銃口を涼音に向けた。




「俺に傷一つつけてみろ!?親父が黙ってねぇぞ!
親父の手にかかれば、お前なんか一握りで……ぶっ!」




湊が言葉を発していても涼音は構わず、湊に近付いた。
そして素早く湊の懐に入ると、拳を突き上げた。




涼音の拳は湊の顎に入り、湊は勢いよく天井に叩きつけられた。




「…お前の親父が黙ってない?それがなんだ」




涼音はふっと笑い、天井から落ちてきた湊を今度は蹴りで壁に叩きつけた。




「…九条院家の護衛人と柊の名を捨てた私には、関係ない」




湊は背中に二度も強い衝撃を受け、藤馬の隣で意識を失った。
意識のなくなった二人を、涼音は苦しそうに肩で息をしながら見た。




(…これで…私を縛り付けていたものが…全てなくなった…私はやっと自由になって…美桜様(あなた)の傍にいられ…る…)




縛り付けられていた見えない鎖が砕かれ気が楽になったのか、涼音は膝から崩れ落ちた。




「…ほんとお騒がせな女ね」




床に倒れそうになった涼音を優しく受け止めたのは、胡梅だった。
胡梅の腕の中で涼音は穏やかな表情で眠っていた。




「…これであなたに見逃してもらっていた借りは返せたかしら?」




眠る涼音を胡梅は妖艶に微笑みながら見つめた。
それから呆然と見つめる悠汰達の中のある人物を見た。




「ヤマトくん…と言ったかしら?涼音のことお願いしてもいい?
私はここの後処理をしてから帰るから」


「…え、あ、はい!」




自分が指名されたことに驚きつつも、ヤマトは胡梅のところに駆け寄ると涼音を抱き上げた。




「…っ!!」




服の間から見える涼音の肌の傷が遠くから見るよりもかなり痛々しく、この傷で残りの敵全てを片付けたのだと思うと、ヤマトは驚くしかなかった。



こうして長い戦いが終わり、悠汰達は眠っている美桜と涼音を連れて鷹沢組に戻った。