カチャ…




体を少し動かしたら、左胸の方から僅かに金属音がした。




音がしたところを見ると、ジャケットに九条院家の紋章が入ったバッジが付いていた。




…あぁ、駄目なんだ。私は…




「美桜様、私は掟を破った罪人。あなたに笑顔を向けられる資格などありません。


況してや私は九条院家の護衛人、守るだけの道具なのです。高貴で美しい美桜様の笑顔は私には相応しくありません」




私は罪人であろうと、九条院家の護衛人。
代々護衛人を務める柊家本家の娘。




どんなに美桜様と共に生きたいと願っても、この血には抗えない。




私は産まれて死ぬまで、九条院家の人間を守って死ななければならない。




自分の意思など持ってはならない。
私は守るだけの"道具"なのだから。




自嘲的な笑みを浮かべると、視界で美桜様も笑った気がした。
そんなわけないと思って顔を上げると、美桜様は本当に笑っていた。




「…ならあなたのその見えない鎖…私が砕く…」




美桜様はもう一度微笑むと無理をしていたのか、その場に倒れてしまった。




いくら私の主といえど、この鎖は砕けない。
この鎖を砕いたとしたらそれは…




「……っ!しまった…!」




最近はずっと拷問を受け、拘束されていたから感覚が衰弱していた。
だから私に銃を向けられていることに気付くのが遅くなってしまった。




銃口が光った方を見ると、そこは九条院家の本家ビルの屋上だった。




あんな遠くからいったい誰が…!?




犯人を考えている暇もなく、一発の銃弾が窓から私の左胸に飛んできた。