美桜様、あなたは何故…




「何故苦しいのに…笑っているのですか…?
私は…私はあなたに私のことなど気にせず、暮らして欲しかったのに…!」




私はあなたのそんな弱々しい笑顔を見るために助けたんじゃない。




あなたが幸せそうに笑うところが見たかったのに。




美桜様がこんなにも苦しむのなら助けたあの時、燃えた屋敷と共に死んでおけば良かった。




私が後悔に顔を歪めていると、檻の中の美桜様が床を這いつくばってこっちに近付いてきた。
それが視界に入った私は自然な流れで顔を上げ、美桜様を見た。




美桜様は私に届くことのない手を伸ばして、分厚いガラスにつけた。




「あなたが…教えてくれたのよ?
笑顔というのは誰かを笑顔にするだけでなく、傷ついた心も温かく包み込んで癒してくれる魔法の力だって。だから悲しい時、苦しい時こそ笑えと。


涼音、あなたが笑顔になるのなら、私はどんなに苦しくても悲しくてもあなたに笑顔を見せるわ」




美桜様はそう言って、また笑った。




ずっと昔に教えたことなんか忘れられていると思っていた。
私自身、美桜様に言われなければ忘れていた。




悲しい時、苦しい時は無理して笑わず泣けばいい。
ほとんどの人はそう言うだろう。




でも私はそういう時こそ笑っていたい。




私には悲しい時苦しい時に泣くと、一緒になって泣いてしまう美桜様(あなた)がいるから。




もし私がいることで美桜様が笑顔になるのなら、私はあなたと…




美桜様の方へと身を乗り出す。