日が沈みかけた夕暮れ。




私は悠汰達と共に湊兄様の屋敷に向かうため、準備をしていた。




「お母様…どうか私に力を貸してください…」




私はお母様からもらった辞書を抱き締め、部屋を出た。




階段を下りると壁に寄りかかって腕を組んでいる、悠汰がいた。
悠汰は私の足音に気付くと、こっちを見て微笑んだ。




私も自然と微笑む。




靴という外に出る時に履くものを足にはめ、外に出る。




そういえば自分の脚で外に出たのは、これが初めてかもしれない。




太陽は沈みかけているけれど、夕方独特の風がとても気持ちよかった。




外には黒い車が用意されていて、梨緒様やヤマト、テツが待っていた。




すると悠汰が私が抱えるようにして持っているものを見て、眉間にシワを寄せた。




「美桜、それ持っていくのか?」




悠汰が指差したのは、お母様からもらった辞書。




お母様から力を貸してもらおうと思ったのだけど、梨緒様達を見ると皆何も持っていない。




これはいらないのかしら?




誰かに持っていてもらおうと後ろを振り返ると、喜史様がいた。




「喜史様。これを預かっててくださいませんか?」


「…っ!これは……!」




喜史様に辞書を渡すと、喜史様は辞書を持ったまま驚き固まってしまった。
この辞書のことを知っているのだろうか。




首を傾げ喜史様を見ていると、喜史様はふっと笑って辞書を抱き締めるようにして持った。




「分かった。気を付けていってらっしゃい」




喜史様の言葉に私は笑顔で頷き、悠汰達と共に車に乗った。