そんなに慌ててどうしたのだろう。




そんなことを考えていると、駆け寄ってきた悠汰に力強く抱き締められた。




どうすればいいのか分からずに梨緒様を見ると、梨緒様は何故かニヤリと笑って部屋を出ていってしまった。




どうしようかと考えていると、悠汰の体が若干震えていることに気付いた。




「…ゆう、た…?」




名前を呼ぶと、キュッと背中に回った悠汰の腕に力が入った。




「…いなくなったのかと思った。
お前が一人であいつのところに行ったと思って怖くなった」




あいつとは湊兄様のことだろう。
私が部屋にいなくて、悠汰を不安にさせてしまったんだ。




昨日の常磐胡梅から受け取ったあの紙を見てから、悠汰の様子が違った。




私のことをずっと見たままで、何かを考えていたようだった。




きっと私が自分を犠牲にして涼音を助けに行くんじゃないか、そう思っていたのかもしれない。




悠汰が怖くなる前に、私が何か言えばよかった。
悠汰を安心させる言葉を。




私は片腕を悠汰の背中に回し、もう片方で悠汰の頭を優しく撫でた。




「大丈夫。私はあなたに助けられた、その命を人生を湊兄様や兄弟達に易々とはあげない。
私は何があってもあなたの傍を離れない」




私がこの命を人生を犠牲にするのは悠汰や涼音、大切な家族を助けるためと決めたから。




私の言葉を聞いた悠汰は体を少し離し、私を見つめる。




先程よりは落ち着いた表情をしているけど、まだ少し恐怖が残っているようだった。




「言葉だけじゃ、信じられないよね」


「…え?」




私の小声は悠汰の耳には届いていなかった。