鷹沢組大将・譲司は呆然と座り込む美桜を横目で見て、その場を静かに去る。




自分の足音だけ聞こえたものが、いつの間にかもう一つ増えていた。




「あんな言い方しないで、助けてあげればいいじゃない?」


「…胡梅か、てめぇはヒトの話をホイホイ聞いてんじゃねぇよ」




譲司は横目で背後にいる胡梅を睨む。
だが胡梅は恐れず、挑発するように譲司を見下ろす。




「せっかく重文さんにも喧嘩売ったのだから、あなたも少しは動いたら?」




胡梅は美桜に協力するように譲司に言ってるよりかは争うところを見たい、そんな言い方をしている。




そんな胡梅に譲司は呆れてため息をついた。




「右も左も分からない状況で嬢ちゃんを一人で行かせるほど、こっちは弱くねぇんだよ」




譲司はキセルを口から出し、煙を吐いた。




譲司の言葉に胡梅は一瞬目を見開き驚いたが、やがて笑いその場から姿を消した。




そして次の瞬間には外に停めてあった車に乗り込んだ。




「不器用な人ね。素直に『一人じゃ危ないから協力してやる』って直接黒女に言えばいいものを。


ついでに言うなら、私に『九条院家(あっち)の状況を探って来い』って素直に言いなさいよね。私じゃなかったら、理解してなかったわよ?全く」




胡梅は譲司の言いたいことを全て把握し、呆れて車の中でため息をついた。