「…お前に会うのは10年ぶりか、涼音」




目の前に立ち、名を呼んでもピクリとも反応しない。




綺麗な肌をした頬にも痛々しい傷が見える。
その傷にそっと手を添える。




「自らを犠牲にして黒女を逃がすなど...随分と愚かになったな、涼音。俺はこんな愚か者に負けていると言われたのか」




情に流されて道具である黒女を逃がした。
しかも自分が囮となって、自らの命を犠牲にして。




逃がすなら自分も一緒に逃げればよかったものを。




お前はこんなにも愚かだったのか?




そして俺はこんな愚か者に負けたのか?




『涼音はお前にはないものを持っている』
重文様にそう言われ、もう10年が経った。




全てにおいて完璧な俺が持ってなく、欠陥だらけのお前に持っているものはなんだ。




「お前にあって、俺にないものはなんだ?」




涼音の髪を一房持ち尋ねる。
意識のないこいつに聞いても、返事は返ってくるわけない。




馬鹿だな。
こんな謀反を起こした愚か者に聞いたところで、まともな答えなど返ってくるはずないのに。




「今のお前に聞いても無駄か、今の...翼を折られた鳥に聞いても」




主である親鳥を失い、更には羽を折られた鳥。




そんな状態であるお前に聞くことなど何もない。




「…飛びたくとも飛べない苦しみをここで一生味わえ、涼音」




再び牢に鍵をかけ、その場を離れた。




【side end】