紗七の切り揃った黒髪が揺れる。
きっとあなたの家族にも何かあったのね。




「…涼音が何者かと協力して、お嬢様を外へと連れ出しました。


涼音は我々柊家が直に捕らえると思いますが、お嬢様の手がかりは未だありません。


ですがお嬢様を連れ去った賊がただ今この本家に侵入しており、柊家を総動員して探しております。
ですのでお嬢様の居場所が分かるのも、時間の問題かと」




涼音が…?
あの子のことを考えて、あの子を外に出したの?




ずっと掟を守る真面目な子だと思っていたけど、私の考えは違ったみたい。
涼音はあの子のことを自由にしようとしていたのね。




そう、あの子が外に…
あなたはそっちの道を選んで進むのね。




何かを堪えている紗七の頬に優しく触れる。
紗七はビクッと肩を揺らした。




「…あなたは大丈夫?
涼音はあなたの大事な娘でしょ。
私の前では感情を殺さなくていいのよ?」




私の言葉に紗七は目を見開いた。
今にも泣きそうな顔をしている。




でも紗七は俯いて一度深呼吸したと思ったらすぐに顔を上げ、表情がいつもの凛々しいものに戻っていた。




「涼音は私の娘ですが、掟を破った娘に情けをかけるように鍛えてはいません。
掟を破った者にはそれ相応の罰を、柊家の者はそう言われ育っておりますので彼女も承知しているはずです。


私がかける情けはありません」




紗七は嘘が下手。
でもこれは彼女が私を心配させないようにとついた嘘。




…親子そろって不器用なのよ、全く。




また状況を見て参ります。
紗七はそう言って部屋を出て行った。




その時、私の耳にはちゃんと聞こえた。




「…心配かけなせないでよ、この馬鹿娘」




紗七が泣きそうな消えそうな声で言った言葉を。