割れた窓ガラスから乱暴に入ってきたのは、忘れようとしていた悠汰様だった。




でも結局は忘れられなくて。
私は驚いて悠汰様を見ることしか出来ない。




そして悠汰様も私を見て驚いている。




きっと手首を縛られている光景を見て、驚いているんだと思う。




だってすぐにまた初めて会った時に見せた"痛い"という表情をしている。




悠汰様はゆっくりと、次第に早足で私の方に近付いてくる。




でもその足は大声によって止まる。




「と、藤馬!侵入者だ!早く来い!侵入者を排除しろ!」




湊兄様は塞いでいた耳をいつの間にか開放し、私から少し離れて部屋のドアに向かって藤馬を呼んだ。




どこか慌てたように藤馬と何回も呼ぶけど、当の本人は何もしようとしない。




部屋のドアが開いた。
でもそこに藤馬の姿はなかった。




「…貴様がさっきから呼んでいるのは、この軟弱者のことか?」


「…おまっ…!」




聞いたことのある声。
違う、16年間ずっと聞いてきた声。




「…すず、ね…?」




ドアの向こうに現れたのは両手を挙げている藤馬、そしてその藤馬の頭に銃を向ける涼音だった。




涼音を見た瞬間、固まっていた体が溶けていく氷のようにゆっくりと動くようになる。