「お、今更そんな怯えてんのかよ。
くっくっく、いいねぇもっと見せろよその顔」
いつの間にかやってきた湊兄様が、私の上に跨り私の頬をなぞる。
怯える?
この私が怯えているの?
どういうことが怯えるということなのか、分からない。
でもこれが怯えると言うのなら、そうなのかもしれない。
背中に冷気が走ったように、ゾッとする。
道具としてこうなることは分かってた。
でも今までにない想いが溢れてくる。
…だ……嫌だ……
今からこの男にされると思うだけで、消えてしまいたくなる。
触れられたくない。
誰にも触られたことのないところまで、触れられるのはもっと嫌だ。
頑張って紐を解けばいいのかもしれない。
でも体が固まって動かない。
そんな時にいつも読んでいた辞書の一単語が思い浮かぶ。
『恐怖』…恐ろしく感ずること。また、その感じ。
ああ、そうか。
これが恐怖という感情なんだ。
ずっと感じてみたかった感情。
でもこの感情はできれば知りたくなかった。
ずっと悠汰様と暖かい感情のまま、過ごしていたかった。
こんな感情知らずに、悠汰様と一緒にいたかった。
なぜか目からは水が流れてきた。
これはいつも朝起きた時に流れていたもの。
私は目から水を流しながら、心の底に閉じ込めたはずの悠汰様を脳裏に思い浮かべた。



