「さあ、来たわよ!タロ返して。」

凛々は手を差し出した。

青年は
「受け渡しはここじゃない。門に入ってからだ。」と言って、門に手をかけた。


「…………。」
青年が何事か呟くと、鉄の門が一瞬にして炎に包まれた。

(熱い!)
回りの気温は一気に上昇して、凛々は余りの熱さに手で顔を覆った。

ギギィ。ゴトリ。
ゴゴゴゴ…。

重い音が響き渡り、門が少しずつ開いた。

扉が完全に開くと、青年は熱さなど感じないように扉に近づいていった。

「待って!こんな火の中通れない!」

凛々は熱に耐えるのがやっとだった。


青年は容赦がない。
「そうか。では、大切な物は救えないな。」
とタロの入った玉を持ったまま、門をくぐろうとした。

タロが苦しそうに息をしているのが見えた。


「止めて!タロが死んじゃう!」

「知らんな。」

止めて止めて!タロが死んじゃう!


凛々は炎の中へ駆け出していた。

熱い。息が出来ない。全身を炎が舐めるのを感じる。
身体が溶けていく。
そんな感覚と同時に、意識も消えかけた。


ギャウンっ!!
断末魔の叫びが聞こえた。

……タロ……

今行くから!
身体があるかどうかも分からない。ただ、意識だけが今の凛々にあった。

炎を抜け出し、前を見ると、青年がタロと一緒にいた。


正確にはタロではなかった。

青年が持っていた物は、タロの魂だけだった。