凛々はその見知らぬ青年を見た瞬間、全身の毛を逆立てた。


キケン。キケン。
コノヒトハキケンダ。


本能が、身体の全てが逃げろと言っている。なのに、身体が硬直して、指の先すら動かない。


「おかえり。」
と青年はゆったりと笑みを浮かべてこちらを見ていた。


良く通る低めの声は、凛々以外の人間が聞いたらうっとりするに違いない。
長く真っ直ぐ伸びた髪を、肩の辺りで無造作に編んで、片方の肩にかけている。

美しい小さな顔、額にかかる前髪の隙間から小さい赤い石が光っているのが見える。瞳は宇宙に散らばる星を見るように、漆黒の中にキラキラと輝いている。
おとぎ話に出てくる妖精王のようだ。


身長は高い。
180センチ以上はあるだろう。

なのに武骨な動きは微塵もなく、リビングに妖精王なんていたら、違和感があるはずなのに、全く感じさせない。

誰もが見惚れるに違いない青年を、凛々は壊れそうなほどドクドク動く心臓の音だけを聞いて立ちすくんでいた。


「ふぅん。そうしていると、地球の人間そのものに見えるな。」

頬杖をつきながら、青年は呟いた。