「私、そろそろ帰るね。今日はごめんなさい。」

私はスッとベンチを立った。

歩き出そうとすると、武志が慌てて、手を掴んだ。

「待てって。悪かった。」
私は、振り向かなかった。
「こっちむけって。」
武志がグイッと引っ張るから、バランスを崩しそうになる。
「もう!引っ張らないでよ!」
と振り向いた瞬間、両手を掴まれた。
「ちょっ……」

「相手が犬なら話は別だ。俺と付き合ってみない?」

「な、なんでそうなるの?」

「山下はさ。側にいた男と言えば父親と犬…名前なんだっけ?そうそう、タロだけだったわけじゃん?やっぱりさ、同じ歳の男の事も知ってたほうが良くない?」

「別にタロがいれば。」
「それは狭いぜ。世の中半分は男なんだからさ。知っといて損はないから。」

なんだか丸め込まれてない?


「でもまあ、考える時間も必要だよな。うん。返事は来週のこの場所で同じ時間に。オッケ?」


1人で納得して1人で決めてしまったじゃない。

何だか変な展開になったけど、しかたない。ナツ達にも相談したいし。


「…わかった。」
俯いて言うと、
「良い返事待ってるから。」といって、私の頭に口づけした。


「なっ!武志!」


「待ってるから。」
じゃあと手をヒラヒラさせながら、武志は、行ってしまった。