運命の二人~白と黒の物語~

「そろそろ戻ろう。マーサが涙の海で溺れないうちに。」


そうだ!すっかり忘れてた。

「大変!今何時ですか?昼には戻る約束してたのに。」


「今は夕方に近い。お腹も空いたろう。屋敷に向かうぞ。」


そう言って凛々を軽々と抱き上げた。


「な、なにするんですか?」

「しっ。黙って。」

暴れて降りようとした凛々を制して、バササッと翼を拡げた。


つ、翼だ!
「飛べるの?」

「勿論だ。」と可笑しそうに答えるといくぞ、とフワリと舞い上がった。

「きゃー!」
いきなりの事に凛々はジャスティスの服にしがみついた。

先程までいた池はあっという間に小さくなり、城が近くなっていく。


あんなに苦労して歩いたのに。こんなに近かったのね。


凛々は下を見ながら思った。


上を見ると、ジャスティスの端整な顔とゆっくり羽ばたく翼が見えた。
こんな間近でじっくり見たのは初めてだ。


大きな翼は燻し銀のように艶めいて光っていた。

少し黒ずんだ銀色。

綺麗だなあ。この人は何もかもが綺麗。


「そんなに見つめられると、邪な気持ちになってしまうな。」


急にジャスティスが凛々のほうを向き、目を細めながらニヤリとした。


慌てて下を向く。


わ、恥ずかしい!そんなに見てたんだ。

「えーと、私も翼とかあるのかなって思って。」

私が見てたのは貴方の翼ですよと、アピールしてみたが多分バレバレだと思う。


「どうだろうな。リリー・ルゥが翼を拡げた所は見たことがないな。
全員が有るものでもない。
君が飛びたいなら私がいつでも抱いて連れていってやろう。」


この人は。

こんな台詞、恥ずかしくないのかな。

私は聞いてるだけで恥ずかしい。耳まで赤いのが分かる。

はあ。風が頬に当たって気持ちがいい。


「着いたぞ。」

一人でぐるぐる考えているうちに、ジャスティスはフワリと地面に降り立った。