この病院、地下なんてあるのか?
さすが、大きな総合病院だ。
金の使いどころが理解できねぇよな。
しばらくボーっとついていくと、
いつの間にかある部屋の前で止まっていた。
ぶつかりそうになりながら慌てて立ち止まると、
桐生さんが書類を持った手で、ドアに手をかけていた。
あーあ。
あれじゃ絶対開けらんねぇよ。
「あ、俺やる……っすよ」
慣れない敬語を使いながら俺は扉を開けた。
「ありがとう。神崎医師」
あ。
また……。
なんでこの人は俺のことを
“医師”って呼ぶんだろう。
謎だ。
謎すぎる・・・。
俺はその小さな背中をじっと見つめながら、
その部屋の中へと入った。
*
「うわ。すっげぇ……」
その部屋は、言うなれば自宅の一室。
書斎のような部屋だった。
沢山の資料が並んだ棚に、
色んな機械に繋がれているパソコン。
とても女の人が使うような部屋ではなかった。
仕事の出来る女―。
そんな堅いイメージが、
その部屋の雰囲気で浮かび上がった。
この人はもしかしたら
仕事一筋のベテランなのかもしれない……。
まじまじと眺めていると、桐生さんと目が合う。
桐生さんは俺をみてにっこり笑った。
「珍しい?女が仕事するのは」
「や、そうじゃねぇ……っすけど、
ただドクターって普通はおと・・・」
“男の職業だ”
そう言おうとして口を噤んだ。
桐生さんはそんな俺を見て微笑む。
「私も、
自分が医者になるなんて思ってなかったわ」
「え?じゃあ、なんで」
「……さぁ。どうかしら」
桐生さんは遠くを見つめるような眼差しでそう答えた。
さぁって……。
なんだろう。この違和感は……。
「神崎医師は、
どうして医者になろうと思ったんですか?」