この病院、地下なんてあるのか?


さすが、大きな総合病院だ。


金の使いどころが理解できねぇよな。


しばらくボーっとついていくと、
いつの間にかある部屋の前で止まっていた。


ぶつかりそうになりながら慌てて立ち止まると、
桐生さんが書類を持った手で、ドアに手をかけていた。




あーあ。


あれじゃ絶対開けらんねぇよ。



「あ、俺やる……っすよ」


慣れない敬語を使いながら俺は扉を開けた。


「ありがとう。神崎医師」


あ。


また……。




なんでこの人は俺のことを
“医師”って呼ぶんだろう。



謎だ。


謎すぎる・・・。




俺はその小さな背中をじっと見つめながら、
その部屋の中へと入った。










「うわ。すっげぇ……」




その部屋は、言うなれば自宅の一室。


書斎のような部屋だった。


沢山の資料が並んだ棚に、
色んな機械に繋がれているパソコン。


とても女の人が使うような部屋ではなかった。



仕事の出来る女―。


そんな堅いイメージが、
その部屋の雰囲気で浮かび上がった。



この人はもしかしたら
仕事一筋のベテランなのかもしれない……。



まじまじと眺めていると、桐生さんと目が合う。


桐生さんは俺をみてにっこり笑った。



「珍しい?女が仕事するのは」


「や、そうじゃねぇ……っすけど、
 ただドクターって普通はおと・・・」




“男の職業だ”




そう言おうとして口を噤んだ。


桐生さんはそんな俺を見て微笑む。



「私も、
 自分が医者になるなんて思ってなかったわ」


「え?じゃあ、なんで」


「……さぁ。どうかしら」



桐生さんは遠くを見つめるような眼差しでそう答えた。




さぁって……。


なんだろう。この違和感は……。






「神崎医師は、
 どうして医者になろうと思ったんですか?」