振り返ると、一人の少女が立っていた。


白い肌に真っ黒の長い髪。


大きな目でこちらを見ていた。


「どちら様?宗祐の知り合い?」


「……その子、かわいそうね。
 その年で心臓病だなんて」


少女は眠っている宗祐を指さした。


ちょっとだけ口角をあげて、
じっと見つめる。


なんだこの女。


不気味だな……。



「その花、クロッカスって言うのよ」


「クロッカス?」


「花言葉は、切望」


「切望……」


「あなたを、待っています」


少女はそう言うと、
俺に視線を向けた。


どこか虚ろな目をしていて、
背筋がゾクリとした。


「君、名前は?」


「……成瀬詩織」


成瀬はぽつりと言った。


そうしてゆっくりとドアを閉めて、
部屋を出て行った。


「なんだあいつ……」


成瀬のいなくなったドアを眺めていると、
宗祐がうーんと唸った。


「宗祐」


「ん……なんだよ、
 お前、何してんの?」


宗祐が体を起こして目をこすった。


こういうとこ、まだ未成年だなと思う。


まだ眠そうな宗祐は
ぼーっと窓の外を見つめた。


「あ、あの花増えてる」


「えっ?」


「あの姉ちゃん、来たんかな」


「あのさ、宗祐」


「あ?」


成瀬のことを聞こうとして、止めた。


あの虚ろな目を思いだすと、
何故か聞かないほうがいいのではないかと思った。